歌は魔法【闘病記(55】

回復期


ここの回復期リハビリテーション病院にする前の
 
急性期(病気発症したての時期。
救急車で搬送され、一番最初に入院する病院)での思い出話。
 
 

今私がいる回復期病院では、
週に2回、ヘルパーさん主催による
カラオケ大会
が開催されている。
 



入院患者が自身の喉を自慢しあう。カラオケと言ってもテレビに繋げる家庭用のカラオケマシンなので、
街のカラオケボックスのように曲が何でもあるわけではない。
 
かと言って古い演歌ばかりというわけでもなく、
作詞者没100年経った謎の曲が大半をしめる。
 
私はここで初めてカラオケで「翼をください」熱唱した。
 
しかし歌うのが好きな私は、入院日当初より、
カラオケ大会開催日は、御年配に混じって必ず参加している。
カラオケは最高にストレス発散になるからだ。
そもそもリハビリ入院生活においては、
常にナースの監視下
という不自由なこと以外は何のストレスもない。

には不思議なパワーがある。

高次脳機能障害で普段喋るのが苦手な患者さんでも、ことカラオケとなれば自分の好きな歌なら大熱唱できる。上手い下手は関係ない。
カラオケ大会はいつも大盛り上がり。
 

歌は魔法だ。
 
 

このカラオケ大会の時は、皆脳卒中のことは忘れて大熱唱。でも、これも立派なリハビリ。
口を大きく開けて、音程とって声を出して歌うにはパワーがいる。
腹筋も使う。1曲歌うだけで下手なST1時間よりも十分効果的だ。
 
どこのリハビリ病院にも、こういったカラオケ設備は用意されていると思うが、十分活躍しているだろうか。
 
どこのリハビリ病院も是非積極的にカラオケをリハビリに取り入れて欲しい。
 
 

そんな歌の底知れぬ
パワー
を感じたのが,、
私が急性期病院で入院していた時だ。
 
私が入院していた病室は、今と同じような大部屋だった。一つの大きな部屋に、
複数の患者がカーテンで仕切って生活する。
 
急性期は私の部屋には他に2人の患者がいたが、         
周りの患者さんは、同じ脳卒中でも、みな脳に強い麻痺がある患者さんばかりだった。
 
運動、言語、高次機能、

どれも強い障害がある。
片麻痺の私でさえ、ここにいるのが申し訳なく思うほどだ。特にご家族さんがいらっしゃる時は。
 
別に彼らを哀れんでいるわけではないが、同じ脳卒中でここまで障害が違うのかと、
神はやはり存在しない、と悲しくなる。
 
テレビのイヤホンから漏れる音、
こそこそ電話する話し声、あくびや咳払いなどの生活音が一切ない、
聞こえるのは1日絶え間なく聞こえる心電図のピッピッという音だけ。
たまにあー、とか、うー、という静かなうなり声だけが唯一の人の気配。
 
 

私は当時は今みたいに車椅子でどこでも自走してもいいわけではなかったので、
1日中物静かな彼らと一緒。
時折面会に来る患者さんのご家族さんが唯一の話し相手。彼らに何を話かけても、私の声なんか届かない。
認識などしてくれない、コミュニケーションに意味がないと、ずっと思っていた。
同じ脳卒中同士
なのに。
 
 

急性期時代の朝の食後は、
ナースコールでナースさんを呼び、
車椅子を押してもらって病室に備え付けの洗面台の前まで連れて行ってもらい、歯磨きをする。
 
当然は歯磨き中は、ナースさんはじっと待っているわけにはいかないので、
「終わったら呼んでね」
と、すぐどっか行く。
 
しかし洗面台にナースコールなどあるわけなく、私は歯磨き終了後はだいたい
放置プレイ
されていた。
 
 

だって自走も出来ないし、帰りようがない。だから私は鏡越しに腕を大きく振っていた。
 
 病室がナースステーションの前なので、
鏡越しに私が腕を振っているのが分かるのだ。
 
しばらくすれば、ナースさんが私が洗面台で放置プレイされているのに気づき
「ごめーん」
と回収しにきてくれる。
 
毎朝同じくだりが続くのが嫌になった私は、
 
ナースさんに私の存在に気づいてもらうサインの腕のスイングに合わせて、サライを歌うようにした。
まるで24時間テレビのエンディングのように。
 
 

「♪さくらーふぶーきのー」

 

「♪さらいーのそらへー」
 
 

「ごめん!待った?」

 
「今日は3番まで歌いましたよ!」

と、かけつけたスタッフに毎回当て付けを言う。
 

こんなやり取りを毎朝のように病室内でしていたとある日の深夜、
私は急に視線を感じ、ふと目を前にやった。
私の目の前の患者さんがじっとこちらを見ながら、
手を軽くあげ、ずっとスイングさせていた。
 
最初は意味が分からなかったが、これは
サライを歌え
ということなのかな。と思い、
彼が納得するまでサライを歌い続けた。
 
1曲歌い切ると彼のスイングがピタリと止まる。
そしてしばらくするとまたスイングが始まる。アンコールだ。
 
「えー?!夜も遅いのでもうこれで最後ですよ!朝も聞いてたでしょ?!」
 
 

彼らとコミュニケーションなんか取れないと思い込んでいたのに、
しっかりとコミュニケーションが出来た。
 
サライを通じて。

この嬉しいやりとりをいまだ誰にも話せれていない。
 
あの時、その患者さんのご家族さんに教えてあげたらよかった、と今もちょい引きずっている。
 
あれから半年。
 
 

彼は元気ににしているだろうか。
 
 


退院したら
 

サライを

 
歌いに行こう。

 
 

 
 

歌は魔法だ

 
 



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