夜のお店のお仕事体験談【後編】

番外編

目的地である商店街奥のお店に到着。

階段をのそのそのぼる。

outside spiral staircase

「いらっしゃいませー。」
 

 

また言われる。
 
「今日からお世話になります。」

スタッフに挨拶をする。
 
店内にスタッフは二人いた。
チョビ髭の年齢不詳のオッサン、
あと、若そうな茶髪のお兄さん
二人と名前を交わし、軽く自己紹介をする。

そのあと、チョビ髭から
蝶ネクタイ
をわたされる。
二人をよく見ると白いカッターシャツに
蝶ネクタイをしている。
 
なるほど。カッターシャツに蝶ネクタイが
ウエイタースタイルなのか。
 
「くれるんですか?」
念のため聞いてみた。
 

 

「なんでやねん。
それ2000円ぐらいするねんから無くすなよ。」

2000円を首に着ける。
 

 

鏡を見る。
 

 


やたら似合ってるのが恥ずかしい。
 
これで私も
夜の世界の人間か。

お店の開店とともに、白い
スケスケ

ドレスを来た
お店の嬢達が、
バックルームらしき部屋から
わらわらと出てきた。
ドキドキした。
 

 

そしてチョビ髭から仕事の指導を受ける。
どうやらこのチョビ髭が教育係のようだ。
 
ウエイターの仕事は、
オーダーされたドリンクを
テーブルにに運ぶだけ。

 
オーダーは嬢が出す
手のサインを確認
する。

もう覚えてないが、
このサインの時は
生ビール
水割りロック
みたいな感じで、
サインに合わせて
ドリンクを運ぶ。

 
サインを覚えるのが大変だった。
 

 

オーダーが入ると大きな声で
「サンキュー」と叫ぶ。
 
チョビ髭が、
試しに声を出してみろというので、
私は緊張しながらも「サンキュー」と叫んだ。
 
すかさずチョビ髭から
「もっと腹から声を出せと」怒られる。
 
私は渾身の声で叫んだ。
チョビ髭が首を傾げる。
客のいない店内で「サンキュー」の練習が
むなしく続く。
 
「まだ小さい!もう一回!!」
「さ、さんきゅゴホゴホ」
 

 

「ひー。
もう
帰りたい。」

 
「いらっしゃっせー!」
 
突然チョビ髭ともう一人の若造が叫ぶ。
耳がキーンとなる大声だ。
私のサンキューとは段違い。
 
さすがだ。
 
関心と同時に、この声量は私には
無理ゲー過ぎると、愕然とした。
 
それはそうと、
お客さんが来たようだ。
 
髭が「行くぞ」と言うので、
私は髭とともに入り口で待機している
お客さんのところへ小走りする。
 
「何名様ですか?」
 
私は声をかける。
 
お客さんは
中年の酔っ払いサラリーマン集団だ。
みな顔が赤く、上機嫌。
すると先頭のサラリーマンが、しきりに

「指入れは
オッケー
なん?」

髭に聞いていた。
 
「それは
NGです。」

髭が答える。

ゆ、指入れ?

私はお客が質問した意味が
さっぱり分からなかったが、

髭が言うにはアカンことらしい。
 
すると髭が
 
「よくお客様から指入れについて
聞かれることがあるけど、
うちは基本NGだから。
よく覚えといてね。」

 
髭からよく
分からない
指導

受ける。
 
サラリーマン達は、一人ずつバラバラで
ソファーに座り始める。
 
髭が各テーブルを周り、客に説明を始める。

そして嬢たちも一人ずつ客の横に座り始める。

私は、その光景を見て、
あ、やっぱりキャバクラなんだなと
今頃確信をした。

ふいに髭に肩でこづかれる。

「おい」

顎で指図する。

見るとさきほどの嬢の一人が
サイン
を出していた。

私は慌てて「サンキュー!」
大声を張り上げた。

髭が「よしよし」と軽く頷く。
 
サインを見るといいね!のように
親指を立てている。
 
あ、あれは生ビールのサインだっけ?
 
オロオロしていると、髭が
「はよ、持ってけ、」
と、
ジョッキに生ビールを注いで
持ってきてくれていた。

「ありがとうございます!」
 
私は、こぼいないように
髭からジョッキを受け取り、
生ビールをサインを出した
テーブルのお客の元へ持っていく。

「お待たせしました。」

ふう。緊張した。
 
私は元いた位置まで小走りで戻る。
 
髭が近づいて来る。

「やることはこんな感じね。
各テーブルのサインを見逃さないように。
サインに注意してあとは
ゆっくりしていていいよ。
女の子を見ていてもいいし。」

と言われたので私は
さきほどビールを運んだテーブルに
目をやる。

ギョッとした。

なんと
上半身裸
なっているではないか。
 
私はこの時、生まれて
始めて

女性のバスト
を見た。

そう。私はまだこの時
童貞
だったのだ。

写真でしか見たことがなかった、
可愛い女の子の本物のバストが、、、
何という
ことだ。

 
しかも、一人だけじゃない。
接待中の女の子皆脱いでいる。
 

 

思わず
股間が
反応する。

 
髭が

「すぐ慣れるよ。」と笑う。
 
その後、サインが次々と出始め、
女の子のバストどころではなくなる。
 

 

  

 

オーダーも落ち着き始めたところ、
髭にタバコの買い出しを頼まれる。
 
客から頼まれたらしい。
 
私は髭から1000円を受け取り、店を出る。
タバコ屋はお店を出てすぐ角にあった。
 
私は頼まれたタバコを2箱買い、
急いで店に戻る。
 
たくさんのキャッチの人から
「お疲れさまです!」
声をかけられる。
 

 

私は今何をしているんだろう。
 

 

仕事って大変だ。
 
すれ違う酔っぱらいサラリーマンを
避けながら私はため息をついた。
 
お店に帰還。
髭にタバコとお釣りを渡す。
 
はぁ、はぁ、疲れた。
持ち場に戻って待機していると、

突然店内が真っ暗になる。

そして、店内BGMが急に代わり、
ミラーボール
が光とともに
クルクル周り始める。
 

 

?!
 

 

な、なんだ?
なんだ??

 

 

オロオロしていると、髭がマイクで、
荒々しく
早口で
アナウンスを始める。
 
「さあ!さあ!
お待たせ
いたしました!
ここから
サービスタイム!」

 
髭が曲調に合わせて
ラップのようにアナウンスを始める。
 
まるでトロサーモン久保田の
マイクネタのよう。

かなり饒舌だ。
髭すげぇ。

 
髭のアナウンスが始まると、
嬢たちが客の顔に胸が当たるように
またがるように客の上に座り始める。
 
そして髭が
 
「はい振ってー!
振ってー!」

リズムを取るようにマイクで叫び始める。
 
嬢たちは体を上下させている。
 
「振っちゃってー!」
 
髭の叫びとともに茶髪の若造が
髭に合わせて合いの手を入れる。
 
いったい、なにが始まったんだろう、、、。
 
サッパリ
分からない。

 
訳も分からず棒立ち状態が数分続く。
 

 

数分後、髭のマイク終了とともに、
店内の雰囲気も元に戻る。
 
サービスタイム?とやらが終わったのかな。
 

 

その後サラリーマン達はじめ、店内にいた客が
次々に帰り始める。

髭から各テーブルの
おしぼり

回収していけと命令を受ける。
 
私は、テーブルに、クルクル巻かれ置かれた
おしぼりを回収して回る。

嬢達が、上の服を羽織りながら、
「おつかれー。」

バックにはける。

私は、この回収しているおしぼりがいったい
何に
使われたのか
知るのは、
ずっとずっと
先の話
になる。
 
店内の客も一通りいなくなり、
安息の時間
が流れる。
 

 

そういえば今何時なんだろう、、、。
 
ポケットの携帯で時間を確認する。
時刻は
夜12時前
になっていた。
私は
ギョッ
とした。

面接時に、
上がり時間を終電前にして欲しい

希望を伝えていたので、
それを知っていた髭が

「もうそろそろあがるか?」

と聞いてきてくれた。
 
私は首を縦に振り、

「お先失礼します!」

と、急いでお店を後にする。
 
店自体は翌朝まで営業しているらしい。
 

 

髭と若造は閉店までずっと働いているのかな?
大変だなぁと思いながら
東通商店街を駆け抜ける。
まだまだ酔っ払いサラリーマンも
キャッチもたくさんいる。

東通商店街は眠らない街、、、。
 
私は終点間際の電車に乗り自宅に帰る。
 
長い一日だった。
 
私は風呂も浴びずに、そのまま布団に入る。
 

 
 

 

翌朝、起きる正午を回っていた。

学校、大遅刻だ。
しかし、体が動かない、、、。

私はその日学校をサボった。

相当疲れていたようだ。
 
しかし無情にも
例のバイトは今日もある。

あと、2~3時間でお店に向かわないと。
 
これは無理だ、
と思った。
 

 

そして私は決心する。
 

 

私はバイトを辞める電話する。
 
お店に電話すると、
聞き慣れない声の男性が出る。
 
どうやらお店の店長のようだ。
 
私はもう続けられない旨を
電話先の男性に伝える。
 
男性は「はーい」と軽く了承してくれた。
 
ふう、良かった。
 

 

しかし、昨日あれだけ教えてくれたのに
申し訳ないことしたな、
と、髭さんに
懺悔
をした。

同時に、持ち帰ったままの、
蝶ネクタイ<のことを思い出した。     「まぁ、
いいや。」

 

 
 

 

おわり
 

 
 

 

その後、パクリっぱなし
蝶ネクタイ
は、
 
例の学生時代に制作した短編映画、
「自動販売機の真実」の小道具として
使われることになる。
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